支払不能や支払停止となった後には、一部の債権者だけに支払いをしてしまうと、返済義務が免除されなくなったり、場合によっては犯罪になってしまうことがあります。
法律が禁じる偏波弁済とは
自己破産は、裁判所の免責許可を経ることで、借金返済義務を0にする効力を有しています。非常に強力な力が働く一方、債権者には少なからず不利益が生じるため、破産手続きは、すべての債権者に平等でなければならないという原則(債権者平等の原則)に基づき、進めることとされています。
債務者が支払不能や支払停止となった後、一部の債権者を優遇したり、他の債権者を害する目的で、特定の債権だけを弁済すること(これを「偏頗弁済」といいます。)は、この原則に反し、他の債権者を害して一部の債権者だけが利益を得ることになります。そのため、偏頗弁済がなされたと裁判所に判断された場合、破産者は、重要な原則に反して不誠実な行動をとった者として、免責が不許可にされてしまうこともあります。
一部の債権者にのみ支払いをしてはいけない、と言っても自己破産が必要な状態になっていなければ自由に返済しても問題ありません。では偏頗弁済行為にあたるのはいつからかというと、上述のとおり、支払不能や支払停止となったときです。弁護士に破産を依頼して受任通知などを送った場合も、「支払いを停止」したものとされていますので、返済が出来ない状況になって大多数の債権者への支払いを止めているにもかかわらず、一部の債権者にのみ支払いをすると偏頗弁済となります。
偏波弁済が起きる場合
偏頗弁済が1番起こりやすいケースは、親兄弟や友人から借入をしているとき等、個人から借入をしている場合です。迷惑をかけたくないという気持ちがあるため、どうしても優先的に支払いを済ませてしまいたい気持ちは分かります。しかし、支払いをしてしまうと、偏頗弁済として免責が不許可となる危険があるほか、お金を受領した人は、改めて管財人から請求を受け、場合によっては訴訟等に発展すると、かえって返済をした相手に迷惑をかけることにもなりかねません。
意外と身近に起こるものの例として、家賃・光熱費、携帯電話などの支払いが挙げられます。毎月発生した分をその都度支払うことは、偏頗弁済になりませんが、携帯料金が数万円になっている場合や、家賃を多額に滞納しているものをまとめて支払うと、偏頗弁済をみなされる可能性があるので注意が必要となります。また、健康保険料や納税などに関しては、自己破産によっても免責されないので偏頗弁済になりません。
もし、偏頗弁済をしてしまうと...
前述のように、偏波弁済があった場合、原則として免責は認められないこととされていますので、借金が認められなくなる場合があり、また、お金を受領した人は、改めて管財人を通じ、受領したお金の返還等が請求され、場合によっては訴訟等に発展することもあります。
次に、自己破産には、同時廃止と管財事件という2種類の手続きがありますが、偏頗弁済をしてしまうと、管財人による十分な調査検討が必要とされ、管財事件となってしまいます。管財事件になると手続きが非常に長くなるうえ、破産手続きの申立てするのにも、高額な予納金(最低20万円)が必要になってしまうので、破産者に大変重い不利益が発生します。
さらに、ときとして偏頗弁済は、犯罪行為になってしまう恐れがあります。破産法266条において、「特定の債権者に対する担保供与等の罪」という罪が定められています。ただし、常にこの犯罪が成立するわけではなく、意図的に他の債権者に害を与えることが証明された場合です。
このように、偏波弁済に当たる行為をしてしまうと、さまざまな危険が生じるため、破産等を考える場合には、偏波弁済を行わないように、注意をする必要があります。
ご不明点等ございましたら、弁護士までご相談ください。